すべて月が知っていた

フォンダンショコラを注文すると同量のアイスクリームが一緒に運ばれてくる店

熱いものと冷たいものを同時に含むと口の中が混乱する
しかもアイスクリームとショコラが触れ合っている面はぬるくどろどろにくずれてしまうし、それぞれを別々に食べるほうが断然おいしいので、いつもアイスクリームを食べ終えてからショコラに手をつける

あたりさわりのない中間が生み出す空間がおそろしく苦手だ
こころはふたつしかないはずなのに、みっつめのこころを生産し、ちょうどよく逃げられる距離で曖昧にぷかぷか漂うひとびと

あの日々はわたしにとってすきまの時間だった おだやかに生ぬるく、やわらかに見えて絶望てきなかなしみがあふれていた
ぬるい睡眠のはざまには何も残っていなかったこと ほんとうは彼だって知っていたのだ

霧雨の降る真夏の夜の交差点のにおいが何度も何度もわたしを殺しに来る