走馬灯

最近また長い時間電車に乗って移動することができなくなってしまって、行きたい場所も買いたいものもたくさんあるのにそれができなくてかなしい どこでもドアがほしいけど、おそらくわたしのようなひきこもりにはその移動時間こそ大事なのだとおもう
都会に行っておいしいクリームソーダを飲みたい

透明なかけら

雨の原宿は、セールで買いものしたショップ袋を両腕いっぱいに抱えたわかい女の子たちであふれていて、とびかう高い声やえがおはきらきらこぼれる光が見えそうなくらい明るくうつくしかった
灰色のせかいに咲く色とりどりの無数の傘を見つめながら表参道をゆっくりと歩いた
わたしは孤独で、そしてみんな孤独だということ
いつもすぐに忘れてしまいそうになる

傷口にこぼすみたいに

最近また薄い藤色のものばかり好んで身につけている
藤色はとても安心する色
わたしの涙がこんな色だったら、きっと静かな平穏なこころで泣けるのだろう

あいくるしい

たいせつなことを忘れていないか、記憶の箱の中をたびたび点検する
白色の四角い箱からそっと両手で取り出して、さまざまな角度からながめ、香りをかぎ、温度を確認し、また元の場所に戻す
だからわたしはあのひとをずっと忘れていないし、自分にかけた呪いがとけないのはまぎれもなくわたしのせいだ

かけがえない

夜になって眠くなるのはとても健康てきだし、暗くなったら消灯するという儀式はこころの陰影に寄り添う行為に似ている
ずっとかなしくて、そのかなしさに映る一瞬のせかいがすきだった
ひとりでいることの気楽さやそれがもたらす自由さに甘えてしまう、わたしはずっと正しい“生きる”に反抗してる

おおきな手のひら

あすのお昼ごはんの準備をして ほそほそとお茶をいれる
となりにうさぎのささやかな気配があって、あついお茶を飲みながら今までに通り過ぎてきた景色やことばやもう二度と会えないひとをひとつひとつ思い出すこのたよりない時間がすきだ
ちいさなポットひとつぶんに20年とすこしの記憶がぜんぶつまってるような気がして泣いた

まっすぐ

フルーツサンドのあいだでまいにち眠ったらもう少しだけ透明に生きていけるとおもう

泣けなかった

熱い珈琲で口の中を火傷して
それでも懲りもせずなんどもくりかえし熱い液体を体内に流しこむしかできなくて
ずっとかなしくて
ここに発生した瞬間からかなしくて
かなしい星でずっとずっとかなしくて
愛おしかったはずのひとがほんとうに愛おしかったのか少しも思い出せなくて
めちゃくちゃにころしてやりたくて
目の前の黒い水を飲みながらずっとずっとかなしくて
熱くてかなしくて
ころされるまえにころしてしまいたくて
このせかいのすべてから置き去りにされたくて
(わたしが欲しいのは6月の雨でつくられたはさみ)
(せかいからきれいにきみを切り取ってまっさらな頁にぐちゃぐちゃに貼りつけたい)