ベガ

夏が壊れてゆくようすをまばたきせずに見つめながら
せかいはかなしいとわらったきみの横がおをぼくは憶えている
錆びた心臓に指が触れて
そのさきからぽろぽろとくずれていったね
届かない雨の中に部屋をつくって
はだしになってうずくまり
涙で育つ青い植物に水をやり
見あげた窓越しに浮かんだ月は今晩も鮮やかにかがやくんだ
ぼくはきみを遠い夜に葬ることができず
くりかえし綴った手紙をぼくの星からきみの星までとばそうとする

花もしんで
星もしんで
みんなしんで
きみだけになって
夜の静寂だけがそこに残って
それでもきみはわらうのだろう
遠くの星できらきらとひかるきみを見あげながら
立ちすくんだまま100万年がぼくを連れ去ってしまう

ここにいる

えがおとか、言葉とか、やわらかな手のひらとか
ひとから分けてもらったそういう栄養はわたしのこころとからだにしっかりとすみついて、根をはり、ゆっくり時間をかけてわたしの一部になる
わたしの中にあの子やきみがいて、きみの中にもわたしやあの子がいる
ほっぺたに触れる夜風はいつかあのひとの髪を揺らした風なのだ
わたしはもっともっと遠くまでゆけるとおもう

浅い眠り

どうしようもなくかなしさに支配され朝目がさめてから消灯時間まで1日じゅう星を生まれさせていた
とちゅう、二度立ちあがってお茶をいれた
耳をすますと雨が降り出していた

ただようもの

身のまわりに触れられる形あるものものを増やすことによってこのせかいと自分をつなぎとめられているようにおもう
そうしないとわたしのたましいとからだは別々の場所へぷかぷか進んでいってしまいそうだ
かわいくてうつくしい物体ががんじょうなやわらかい枷になってくれる わたしは安心して夜をあそぼう

ゆらゆら

手を伸ばしてもずうっと遠くて、はやくわたしは夜に追いつきたい

ブラックホール

憎んだりのろったりちいさく点滅し続ける狂気 ヘドロみたいに腐敗した感情が存在しなければ、いとおしいやきれいやだいすきを理解することがないままわたしは早々に一生を終えたのだろうな

悪に満たされた心臓をとおしてきみが見える
きみはうつくしい

一直線

道ばたで天使にあってもわたしにはもうわからないし、クリームソーダの泡に神さまを見つけることももうできないかもしれないけど、むかし海で拾ったガラスを宝石みたいにおもってたいせつに瓶にしまったときのきもちはずっと忘れてない

真夜中の手紙

深夜2時まで開いている古いケーキ屋があって、その灯りを見たくてひとつ手前の駅で降りること
闇がここにあることの希望 ひかりがひかりの役割を果たすために与えられたいちめんの夜が欲しくてしかたなかった

暗い部屋で書きなぐったきたない手紙がせめて真夜中の海面に反射した月くらいの明るさできみの頬に届いてほしい

月の見える部屋

愛や感情には鮮度も賞味期限もあることをこの歳になってやっと知った 放り出されたこころはただれて腐ってゆく
帰るべき家とやわらかなベッドによって1日を正しく精算する

こころのすきま

わたしはほんとうに冷たいにんげんなのに、すきなひとたちはわたしのこと優しいっていう だけどそれはたぶんそのひとたちの受け留める能力がすごいってゆうのと、わたしのそのひとたちへ向かう想いがあふれてる結果なのだとおもう お互いをすきだったら少しでも何かされたらないちゃうくらいうれしい