とばり

珈琲豆を買いにいった喫茶店でお茶をし、ながいこと読み進められずにいた小説を読了して顔をあげると向こう岸のせかいはすっかり群青いろにどろりとくるまれていた
だれにもきこえないほどのおおきさで だれにも伝わらないことばを唄うようにくちびるに留める
ショートケーキとダークチェリーと珈琲
まぶたを結んでも赤いひかりがにじむ
きっとずっとほんとうの絶望なんて知れない

ファントム

明け方、窓辺に置いた水栽培の球根のグラスを少しだけ傾け、また静かに戻す。
闇の中でゆるくたゆたう白い根は暗い海にひそむ深海魚のようだった。
ずっとむかし、自分につけたあたらしい名まえ。音もなくつぶやく。古い呪文。
愛でさえも太刀打ちできないかなしみなんて、最初から死んでほしかったし、愛してしまいたかった。
夜が明けたらわたしは透明な魚になる。

blue

さいごの魔法が解ける前に
ぼくら何回夜を越えられるだろう

こころのなかに灯る蝋燭の火を守る
生きたい

季節

今日はどんなきみにであえるか
今日はどんなぼくにであえるか
雨のにおい
夜を泳ぐ魚
窓辺に眠る黄色のカナリア

流れるように
うたうように
ちいさなしかくいガラスの部屋で
青の神さまが行進をする

薄荷

ことばを通して感情を標本にする

頭がどんどんおかしくなっていく。
訳もわからず涙がどばどば流れ、あしたせかいが終わるみたいなきもちからずっと抜け出せずにいる。

真夜中に地震があった。震度4の揺れで、震源地は千葉県北西部だった。
今まで震度4以上の地震を経験したこともあったし、それでも地震に対してそこまで特別な恐怖をいだいたことはなかった。いつも大丈夫だろうと考えていた。それなのに、昨夜の地震がとてつもなくこわかった。たった震度4の地震が。
こわくて、こわくて、どうしようもなく心細くて、愛おしいひとに連絡しようかと携帯電話を取ったけれど、指がうごかなかった。しばらくしてそのまま携帯電話をベッドにふせた。
まぶたをじっと落とし、愛おしいひとたちを思い出す。愛がこわかった。愛することも愛されることもとてつもなくこわい。地震とおなじくらいに。

どうしてこんなふうになってしまったんだろう。いつからこんなに弱くなってしまったんだろう。
あの頃、向こう見ずに愛を与え続けられた。手のひらから無限に溢れだす宝石みたいに、ひかりの束を渡し続けていられた。愛されなくても。愛おしいひとがわたしじゃない別の女のひとのいる場所に帰っていっても。

熱いココアをいれる。
ココアはいつだってわたしを頑丈に抱きとめてくれる。
白い煙のような湯気はくちびるに触れたつぎの瞬間には冷えてどこかへ消えてゆく。涙でにじむ熱く冷たい煙を見つめる。愛おしいひとに今すぐに会いにゆきたかった。

先の方へ

失いたくないなら 手を離してはだめ
正面からまっすぐに見つめる
わたしはちゃんとわかってる
だいじょうぶ
赤信号で深呼吸をする
涙が止まらない

オレンジジュース

近所の小川が陽のひかりにきらきらささやいていて よく一緒に歩いたガラスの入った夜の道路を思い出す
あいたいひとにあいたいとおもう
気持ちのほつれた先をひっぱるように何日かを過ごしている
想いがおおきくなるほど あたまがおかしくなっていく
強くなりたい

愛するひとがまぼろしだったらどうしようとこわくてこわくてどうしようもなくなる
生きていてほしい、いつかは死ぬけれど、わかっているけれど、死なないでほしい
生きていてほしい

no image

この場所があってほんとうによかったとおもう、ここでは真っ白なきもちを書ける
じぶんをもう少しだけすきになりたい
まっすぐにひとを愛したい

思春期前の天使

ひとを愛したとき、どうやって愛していたっけ、とおもう。
愛するひとをまっすぐに愛するとはどういうことだったろう。
かつて愛したひとがいた。届かない恋だった。一緒にいても、一緒にいればいるほど、わたしはひとりぼっちだった。ひとりでいるよりもずっとひとりだった。

愛するひとがいる。わたしは彼の隣を歩くたび、その美しさにせつなくて泣きたくなる。
愛おしいひとにかたちがあること。そして、そのかたちに触れられること。
澄んだ夏の宝石のような左目や、夕暮れの風になびく髪や、しなやかで繊細な指を見るたび、神さまみたいだとおもう。
彼からこぼれるかけらのひとつひとつをとてもすきだ。愛おしいひとを想って散る涙はひんやりとあまいことを、彼といることで知った。

彼が生きて、ここにいてくれることがうれしくて、うれしくて、彼の香りにだきしめられながらただただ泣いた。まぼろしではなく、生きている。愛するひとが。それだけでうれしくて、うれしくて、わたしはどうなってしまうんだろう。

恋はもう一生しないとおもっていた。誰のこともすきにならないと決めていた。でもすきになってしまった。
愛するひとの愛し方がずっとわからない。思い出せなくて、かつての記憶をたどっても、美しい月夜ばかりがただただ思い出された。
愛するひとをまっすぐに愛したい。この恋が終わったら、わたしはほんとうにもう恋はしない。

夕陽が笑う、君も笑う

だれかを想ってこぼれた涙はいつも冷たくてあまい
かなしい涙はあまい

すぐに消えちゃう君が好きで

あたしの中の神さまがどこにいるのかわからなくなってしまった

日なたの窓に憧れて

"まだ大丈夫かも"と"もう手遅れかもしれない"をずっといったり来たりしていて、何が正解なのかわからないまま数日が経ってしまって、ほんとうは会いたくてどうしようもないけどあたしにはそんなことをいう資格なんてないような気がする
ほんとうの"好き"もわからないくせに"好き"なんて、"会いたい"なんて、軽々しいこと あたしには言えない

柔らかな心を持った 初めて君と出逢った

欲しかったワンピースがZOZOTOWNで半額で買えたり元旦早々姉が横についてアンパンマンたいそうと勇気100%を延々とうたってくれたり初詣でお神酒がぶがぶ飲んだりしてきたのでぜったいによいいちねんにする 生きてるだけでせいいっぱいだけど、きょねんよりもきみやあの子のことを考えたい
ばかみたいに泣けてくる晴れそら
生きるしかあたしたちにはなくて、いつだって命がけみたいだけど、ひとのことを愛せるようになりたい
さよならだけが人生 それでもあたしは笑って生きなきゃいけない 笑いたい ことしもたくさん、たくさん