余暇

フルーツサンドのことばかり考えていたら、フルーツサンドを食べて にこにこしている夢をみて 朝起きてもずうっとうれしかった

夢でおいしいものを食べても起きているせかいでの栄養にはならないけど、そんな夢をみて目が覚めたときはいつも からだの中心あたりが眠る前よりも少しだけ重たくなっているのがわかる
眠ってるあいだにからだに採りこんだものは こころに栄養を送ってくれているとおもう、ちゃんと

食べものはこころで食べるものよって むかしたいせつなひとが教えてくれた
だからわたしはこれからも、起きているときも 眠ってるときも やさしくてきれいなおいしいものを たくさんたくさんこころで食べたい

アスタルテ

季節の変わり目に聴く音楽のようなひと

サクラメント

ずっと変わらずたいせつに想い続けられるものって このせかいにいくつあるのだろう

駅までむかう道で前を歩いていた女のひとのスカートの裾に ゆったりと風が絡むさまがうつくしかった
うつろう季節のあまい香りがこころもとなくて涙がこぼれそうになった
もう会えないひとたちにはたぶんほんとうに二度と会えない

白い部屋

老いてゆくにつれて からだじゅうをおおっていた棘がしゅわしゅわと溶け 少しずつこの星を去る準備をする
憎んだり あすをのろったり そんな日々もゆっくりとほどかれてゆく

だいじな想いも景色も時間も ぜんぶひと粒もこぼさずに抱きしめるには わたしはまだまだ若すぎて
わたしははやく もっともっとおばあちゃんになりたい

ひとはかわいい
生きてるだけで こんなにも
わたしたちはみんな 宇宙の手のひらから散った ひかりの子ども

はだかになったたましいで わたしはどこまで飛べるかな

暮らすという旅のいたるところに やわらかい毛布のような手触りをさがしている

木蓮

ちからづよい生に触れる瞬間 それらは同じくらい死のにおいがする
それでもわたしは何度も何度も手を伸ばそうとする

思い出すことで きっとそれはもう過去なんだ
わたしは変わってゆく
生きてる、をつかもうとしてる

あの頃

何度季節をくりかえしても 思い出すたびに胸の奥がじゅっと焼けるような痛みがともなうのは わたしにとってそのできごとがたいせつだったということを心が理解しているからなのだろう
だれかからもらった痛みは多いほうがいい 傷あとはいつかかならず大きなひかりに満ちる
わたしは傷だらけの両腕であふれるひかりを抱きしめたい

ピクニック

月のないベランダへ毛布をひきずりながらはだしのまま出たり 真夜中にホットミルクで乾杯したり 部屋のなかにシートをひいておむすびを食べたり

地球はなんてうつくしい星なんだろう
やわらかくて あたたかくて つめたくて
まるでかなしいくだものみたい

わたしはゆっくりこのからだを脱ぎ捨てながら この星でながいながい旅をしている

抱きしめる

ぬいぐるみは目に見える愛だよ

掬う

わたしはわたしの中にいる神さまをどのくらい信じてあげられるだろう

箱庭の夢

わたしの中にある思い出をしまっておく箱の大きさにはかぎりがあって 大切な過去も少しずつ順番にあふれてしまう
でも箱に入りきらずにこぼれ落ちてしまった記憶はみんな星に帰ってゆける気がする
雨が降って土にしみこんでゆくように きっと記憶のかけらたちは溶けてゆっくり時間をかけてこの星に吸収されてゆく

忘れることと失うことはちがう
こぼれた記憶はすべて地球の思い出になる
わたしは忘れることに対してもっともっと勇敢でありたい

晩餐

いちにちの終わり 夜の水槽に落ちた月灯りのした
満月とチーズケーキをナイフで切り分けるように ひと切れの夜をそれぞれのお皿にのせ 向かい合い手をあわせる

ひかりで満たしたぴかぴかのうつわをあすの自分へたくすこと 生きることはたましいへ終わらない贈りものをすることだとおもう

わたしのからだのなかで満月の切れはしが燃えている

6等星

あなたはまるで夜空のすみにうまれた新しいひかりのようにみずみずときらめいて その名をそっと唱えるたび 青くてちいさな水晶が いびつなわたしのくちびるからぽろぽろとこぼれてゆく

うまれるずっと前からあなたを知っていたよ 星のおかあさん 月のおとうさん 手のひらのゆりかごの中でぷかぷか笑う神さま

わたしがわたしになるずっとずっとむかしから吹く風が頬に触れて
あなたに会うためにわたし ここへ来た

アスファルト

神さまにも悪魔にもなれなかった

灯台

つくるということは歩いてきた道にパンくずをこぼしてゆくこと そしてわたしの後をゆくもうひとりのわたしがまっくらやみの中その落としたかけらをひとつずつ拾いあげながらたどってゆくこと 夜の森に置いた金色の無数のパンくずの部屋に住むちいさな神さま わたしのからだの内側にそびえたつ灯台からもれるあかりがこぼれないように ふたつのからだでぎゅっと包んだ

カヌレ

からだの外へとぎれとぎれに落とした言葉を拾い集め つなぎ合わせるまでをゆっくり待ってくれる 掬いあげるような目のひと
手渡されたばら色越しに映る瞳の向こうに一匹のやさしいひつじを見ていた