思春期前の天使

ひとを愛したとき、どうやって愛していたっけ、とおもう。
愛するひとをまっすぐに愛するとはどういうことだったろう。
かつて愛したひとがいた。届かない恋だった。一緒にいても、一緒にいればいるほど、わたしはひとりぼっちだった。ひとりでいるよりもずっとひとりだった。

愛するひとがいる。わたしは彼の隣を歩くたび、その美しさにせつなくて泣きたくなる。
愛おしいひとにかたちがあること。そして、そのかたちに触れられること。
澄んだ夏の宝石のような左目や、夕暮れの風になびく髪や、しなやかで繊細な指を見るたび、神さまみたいだとおもう。
彼からこぼれるかけらのひとつひとつをとてもすきだ。愛おしいひとを想って散る涙はひんやりとあまいことを、彼といることで知った。

彼が生きて、ここにいてくれることがうれしくて、うれしくて、彼の香りにだきしめられながらただただ泣いた。まぼろしではなく、生きている。愛するひとが。それだけでうれしくて、うれしくて、わたしはどうなってしまうんだろう。

恋はもう一生しないとおもっていた。誰のこともすきにならないと決めていた。でもすきになってしまった。
愛するひとの愛し方がずっとわからない。思い出せなくて、かつての記憶をたどっても、美しい月夜ばかりがただただ思い出された。
愛するひとをまっすぐに愛したい。この恋が終わったら、わたしはほんとうにもう恋はしない。