4月19日

閉鎖病棟に入院している祖母の様態がよくないという連絡があり、つぎの土曜日に日帰りで帰省して会いにゆくことにした

「生まれつきの精神障害」とどんな病院でも手に負えずにたらいまわしにされて、きらわれて、近所のひとたちからも気狂いあつかいされていた彼女をわたしだってずっとずっとこころから憎んでいたし、
彼女のせいで泣いてるお母さんも病院に通わなきゃいけなくなったお父さんも、毎日ひびく怒鳴り声も食器の割れる音も泣き叫ぶ歪んだかおも警察のひとたちの冷たい目も ぜんぶぜんぶ嫌でぜんぶぜんぶ消えてしまえと思っていた
耳をふさぎながら薄っぺらい毛布にくるまって毎日泣きながら眠った

わたしたちは幸福な家族にはなれなかったけど、ちゃんとあのひとには幸せになってから消灯時間を迎えてほしい
愛されずに生きて、愛された記憶がないまま歪んだ愛情を求めて、だれからも憎まれて、きっと今まで一度もこころから幸せだったことがないひとだから

今何もかも忘れて すべての棘が剥がれ落ちたおばあちゃんは生まれたてのあかちゃんみたいだ
やわらかな白い華奢なからだも ふわふわの髪も ぜんぶが尊いよ

今までほんとうにいろんなことがあった
きょう閉店後お皿を洗いながら今までのできごとがぼんやりと思い出された
あんなにくるしくてこわかった毎日なのに、ころすかころされるかの毎日だったはずなのに、思うのはやわらかいきもちだけで、かなしくて愛おしくてはたはたと涙がシンクにこぼれた
おばあちゃんはきっと誰よりもかわいい天使になれるとおもう

こうして死を覚悟できる時間を与えられることはほんとうにありがたいことだ
わたしが今できることは、きちんと生を受けとめること

わたしの一番最初につくった『夜と君の魔法』の「ゴーストの一日」という詩は、おばあちゃんを思ってかきました
どうか、どうか、幸せになってほしい
わたしおばあちゃんの笑ったかおがだいすきだった