春眠

ポケットの氷砂糖が カラカラと泣く月夜
レモンドロップの風に 目をすます
わたしたち、いくつかのはなしをしたね
かみさまのこと、旅先でみた青い街のこと、
水晶でできた川のこと

見あげれば 春の花のかたちの空が
たよりない ガラスの舟に揺れる

ほどけそうな夜から こぼれてしまう前に
向こう岸から わたしの名を呼んで

青い街

わたしというなにもない部屋の床に散らばった無数の鮮やかなビーズをひろいあつめ 薄い真白なハンカチで ひと粒 ひと粒 ぬぐってゆく
いくらみがいてもビーズが宝石に変わることはない、だけれどつくりものにしか生めない儚いひかりがあるのだ、きっとたしかに
大人になれない子ども 子どもにもどれない大人
ろうそくの灯りの青いゆらめきを見つめるようなやわらかいさみしさを この星を離れるまで何度も何度も腕にきざんでいたい

赤い実、黄色い実

恋人から突然散歩のお誘いがあり いつもの駅で待ち合わせ、歩いて府中までゆく
恋人はいつもやさしく、にごりのない水晶のような愛をまっすぐに差し出してくれる
わたしは彼がとなりにいるだけでうれしくて、ついはなうたをうたったり 彼の顔を何度ものぞきこんだりしてしまう
このひとをとてもすきだとおもう

炊きたてのごはん 干したてのおふとん
いつだってあたたかなやわらかいこころで ひとやじぶんと向き合いたい
だれも憎むことなく ひかりに腕をのばしたい
ずっと ずっと うれしくて笑っていたい

セイロン

雨の吉祥寺、ワイン色のワンピースの裾が濡れてふくらはぎにへばりつく
灰色の街。灰色のひと。みんな生きていて、醜くて、かわいくて、灰色のひかりが全身を染めていく。
美しさも優しさもどこへ落としてきてしまったのだろう、そんなもの最初から持ち合わせてなかったような気もする

灰色に濡れたアスファルトのしめったにおい。

左耳にクラムボンが揺れている

星、獣、生まれた日

わたしを見つめる恋人の目があまりにもやさしくて、やわらかで、わたしはこの瞬間にふたりのあいだに存在する空気を、手触りを、そのまま薄いガラスの箱に大切にしまいたい

心の中にすんでいた氷がゆっくりとほどけてゆく
このひとがそばで生きてくれていれば わたしはどこへだってゆける

夢の向こうに

「すきなのにどうして家族になれないんだろう」
電話越しに母に泣いた

すきなのに家族になれないなんてそんなのぜったいにおかしくて 運命をただまっすぐに呪った
でも、たとえ家族になれなくても わたしは恋人をすきで、だいすきで、たいせつで、いちばん幸せになってほしくて、あたしはあたしのこの一粒も嘘の混じっていない感情を透明な宝石にして彼にプレゼントしたい

愛だけで何もかも乗り越えられたらいいのに
でもそんな夢みたいなことはない
それをあたしはちゃんと知っている

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どんなにすきでも運命には逆らえない