結ぶ

霧雨の踊る春の原っぱでパーティーを

薔薇のケーキ

しごとを終え 外に出た午前3時
雨に濡れた冷めた夜
深いインクをのみこんだような空
傘をささずに
オーバーのポケットに手をいれて歩く

からだごと感情ごと雨に溶けてしまえたら
どんなに楽だろう
あの頃祈るように聴いていた
だいすきだったはずの歌を聴いても
少しも泣けなくなってしまった

くだもの

命をやわらかに削られながら
引き換えに手にいれるひかり

わたしたちは
失うことで 生きて
いつだって差し出しながら
息をして

何かを手にするには
何かをなくさなきゃいけない
それが今
やっとわかった気がするよ

コーヒーフロート

隣にいるのに
ひとりでいるよりもずっと
ひとりぼっちだった

向こう見ず

今後 指先のつめたいひとに出会うたびに
思い出すひととなるのだろう

タイムマシーン

COACHの財布をもらった

シロップ漬けの
アメリカンチェリーみたいな色
きらきらのラメ
毒々しいほどの深い赤

このせかいは
忘れたいことと
忘れたくないことばかりだ

大停電

かつての恋人のうたを聴きながら
故郷へむかう電車に乗り込む

いま あたしには世界一のことばを話さないといけないときがきていて
つまらないラブソングなんか要らなくて
あの子のこころがどしゃ降りの夜には
ぜんぶを放り出して迎えにいかなきゃなんない
はやく

もう会えないひとに ありがとうをおもう
あの子は かつて過ぎ去ったひとぜんいんがくれた
最高で最大のプレゼントだ

悪夢

恋かもしれないと
おもった時点で
それは恋なのかもしれない
呪いは上書きされていく
いつだって自らの歪んだ愛が
わたしをころす
夜は明けない

Laundry

だいすきな夜がつらいなんて
いつぶりだろう
恋は自己愛の変形
ひとりぶんの熱いお茶をいれ
真っ暗な部屋で
すきな邦画のDVDを再生する真夜中

わたしは自分を甘やかす術を知っていて
ほんとうによかった

ゆらゆら

自らの毒が からだにまわって
しんでしまわないように

やっとのことで越える夜のむこうで
ちゃんと わらえるように
おやすみ のことばに
すべてを込める

夜を駆け抜けて
会いに行かなくちゃいけないのに
見上げる月は
いつも こんなに遠い

春眠

おひなさまが おだいりさまの左側にいるのは
おだいりさまの 心臓をまもるためなんだって

心臓に 感情をいれる部屋があるなんて
誰が言ったんだろうね

守りたいというきもち
助けたいというきもち

だれから 何から 救いだしたいのか
わからないくせに
誰かをたいせつにおもうたび
ひとはみんな
戦士になるんだね