ずっと聴けずにいたCharaのうたを最近またまいにちのように聴いている
砂糖菓子みたい儚いのにどこか渇いた歌いかたは彼女にしか持てないたったひとつの宝石のようだし、
まるで舐めただけで致死量に達する甘い毒みたいだ
Charaは 愛の女神だとおもう
まっすぐで透き通った、真正面からの愛
愛なんて、恋なんて、と蔑むわたしに、愛を信じなさいと言ってくれる
愛を忘れたいとき、忘れてしまいそうになるとき、祈るようにCharaばかり聴く
わたしがさいごにすきになった男の人は、当時 月のよく見える部屋に暮らしていた
わたしたちが会う日は決まって美しい月の夜で、夜中目が覚めるたび大きなガラス窓の向こう高くに浮かぶ白い月を仰ぎ見ながら 隣で眠る愛おしいひとに気づかれないように声をころして泣いた
かなわない恋であること、こんな夜は永遠には続かないこと、
夢はいつか醒めるということ
わたしはちゃんとわかっていた
彼と別れたあとの帰りの地下鉄の生ぬるい灰色のホームで、電車を何本も見送りながら、ただ静かに"月と甘い涙"を聴いた
あの頃のわたしと彼のあいだに確かにあったのは月の夜と頬をつたう冷たい涙だけだった
手を伸ばせば触れられる距離にいたはずなのに、いつも指先はその心臓まで届かなかった
どうしてほんとうに触れたいものには決して触れられないのだろう
世界の裏側にいるみたいにわたしたちは遠かった
車の1台も通らない夜の交差点を降りだした雨から逃げるように手を繋いで走ったこと
いくつもの月の夜
聴かせてくれた秘密のうた
ずっと忘れないのだとおもう