足止め

やらなければいけないことがあるのはとてもいいこと
家事をし 仕事へゆき うさぎのお世話をし 個展の準備をする、まいにちをくりかえす
忙しいととてもすくわれる、だけれどふとした隙間のじかんにとてつもなくかなしくなって ほろほろとひとり泣けてしまう お花のかたちのお干菓子みたいに一瞬のうちに溶けてかたちをなくしてそのまま消えてしまうような気がする

ぬいぐるみをだきしめ かなしみが通りすぎるのをまつとき、決まってすきなひとに会いたくなる
すきなひとに会いたくて、会いたくて、胸がはりさけそうだ
ふたりでいるしあわせを知ってしまってから わたしはどんどん弱くなってしまう

うつくしい晴れた海をみたい
初夏の海がいい、永遠みたいにおもえてしまうような、澄みきった青に抱きとめられたい

プリズム

珈琲を淹れると あなたに会いたくなる
あなたのすきな花を見つけるたび あなたに会いたくなる
わたしはひとり あたためた部屋でぬいぐるみを膝にのせ
アイスクリームを食べながらゆらゆら揺れる
むかし通りすぎたうたを ぽつり ぽつりとくちずさむ

だれかをうんと愛しても うんと愛されても ひとは孤独だとおもう
あなたという島にたどりつきたくて けんめいにもがくけど
満月と三日月が隣り合わせに揺れる祈りには勝てなかった

0から100までのゆるやかな坂をのぼり ゆっくりと降りてゆく季節
1が0にもどるまでの距離をのばしたくて 逃げ出そうとした
舞い踊る枯れはてた海のかけらを飲み込むような嘘を 指にはめて

逃げるたびに近づいて 触れるたびに遠くなる
パステルカラーに裂かれた傷口に反射するひかり
滲んでゆく記憶の中
プリズムに溺れていたい

ひかりのかけら

あなたのうしろから みずいろの風が吹いてきて
原色にぬりつぶした ちいさな風ぐるまが
せーの、で まわりだす

まっしろな ふたつの星が落とした ひかりの石を
とじたまぶたで見つめながら
あなたのかけらに わたしの影をさがす

くりかえし ひろげられる星は
どこまでも透明な方法で 一輪の花を染め
ひかりの闇のなかにある ほんとうのひかりに触れようとした
産み落とされる いくつもの宝石を
あつめていた真昼

みずいろのせかいにこぼれる花に 澄んだ実をかざし
あざやかに彩られたからだで
あすの向こうへ くるくると踊りはじめる

終わらないうたをうたう

たとえば壊してしまいたいものを水晶に閉じこめて叩き割ったとしたら、それは消滅するのだろうか
なくなってほしいもの、消えてほしいもの、存在してほしくないもの
きれいに消し去ることができるのだろうか、最初からなかったみたいに

壊したいのは、感情
誰かが誰かをいとおしくおもった過去、景色、積み重ねられた日々

今がすべてなのに、その世界中にたったひとつしかない宝石がうらやましい
触れることができない  一生触れられない

夢のあと

ひみつの地下室にある 満月のとびらをこじあけ 階段をのぼると
せかいには うすももの夜が流れ出す

冷えた右手につかんでいた深い海の風船は はなたれて
かわりに 青い宝石に似たくだものが 白い手のひらを熱く やわらかに染めていた

わたしというからだの中にいる わたしのことを
とうめいなまばたきの途中に 思い出そうとする

壊れた蛇口からこぼれるしずくのように
夜のすきまに ぱらぱらと剥がれおちる記憶は
流星のしっぽのかたちをして 一瞬のつよいひかりを送り 降りそそぎ 消えた

あす 朝がきて せかいが春のいろに目をさまし
ふたつの星が 朝つゆのひかりにいっせいにうたいはじめたら
わたしは きっと この星の住人になろう

このみちをゆこうよ

やめたと偽って飲んだり飲まなかったりしていた薬を一日二回きちんと飲むように心がけたら感情の波の揺らぎが落ちついたようにおもえて少しだけ楽なった
はやく正常な状態になりたい
空が色水みたいなぼやけた青で少し安心する
陽があたたかい

もう一度きらきらのほうへ登っていく

一緒にいたいとお互いがおもっているのだからそうできないはずはきっとなくて、一緒に生きてゆくためだったらなんだって差し出していきたい
ゆるくやわらかに じかんの流れにたしかに削られていく中で、祈るように生き、もしかしたら生きることじたいが祈りなのかもしれない
いとおしくて 尊くて 何万年もむかしから送られてきた だれもしらないやわらかな宝石みたいなひと
そばで見ていられることがこんなにもうれしい
生きることを祈りにしてくれたひとを わたしはぜったいにまもる  それがわたしの愛のかたちだとおもう