雨の吉祥寺、ワイン色のワンピースの裾が濡れてふくらはぎにへばりつく 灰色の街。灰色のひと。みんな生きていて、醜くて、かわいくて、灰色のひかりが全身を染めていく。 美しさも優しさもどこへ落としてきてしまったのだろう、そんなもの最初から持ち合わせてなかったような気もする
灰色に濡れたアスファルトのしめったにおい。
左耳にクラムボンが揺れている
わたしを見つめる恋人の目があまりにもやさしくて、やわらかで、わたしはこの瞬間にふたりのあいだに存在する空気を、手触りを、そのまま薄いガラスの箱に大切にしまいたい
心の中にすんでいた氷がゆっくりとほどけてゆく このひとがそばで生きてくれていれば わたしはどこへだってゆける